ショパンコンクール第1次予選2日目
ワルシャワのフィルハーモニーホール2階センター席の審査員。前列右に海老彰子さんがいらっしゃいます。左となりはフィリップ・ジュジアーノ、その左はジョン・リンクでしょうか?そして左へ、アダム・ハラシェヴィチ、クシシュトフ・ヤブウォンスキ、ケヴィン・ケナーと続きます。
この日は日本人が次々演奏しました。
まず進藤さんからです。とても堂々とステージに姿を見せ、にこやかなわけではないが軸がぶれないでいることがわかります。よい演奏をするはずです。
ノクターンOp.48-1、どれだけ神経を使って冒頭の音を出したことか。無から音の世界への橋渡しがとても巧みでした。音量の幅は狭いけれどもその範囲で精巧に作り上げられたノクターンでした。
続くOp.25-63度のエチュードも美しい。とても繊細なガラス細工を思わせます。そして打って変わってOp.10-1のエチュード。スピードは素晴らしく、バスの図太さは完全にカットされ、メロディー化している。これも同く繊細な仕上がり。バラード第3番も同じく繊細で美しい音。推進力が欲しいかなと感じることもありました。この先に進んで欲しいです。
アメリカ人出場者を一人おいて、続いての登場は反田さん。
表情の七変化が印象的で、表情と音がリンクしながら一体化することによって音楽を作り上げます。それはそれは念入りに。感性はもちろんのこと、音色を考え抜いた結果もあるのでしょう。
外見から受ける印象とは違って、反田さんの音楽は確かなテクニックに裏付けされてはいますが、まったく爆音は出さないし、低音をしぼってセーブし、ソプラノの響きの美しさを最大限生かす奏法です。
ノクターンOp.62-1はやや音一つ一つにこだわり、もう少し流れが自然であってもと感じる場面もありましたが、これだけこだわれるのは鋭敏な感覚あってこそのことですよね。
エチュードOp10-1もそうでした。徹底して音楽にこだわる。スピード感はすばらしいのだけれども、和声の変化にこれほど敏感に呼応するこの曲の演奏は初めて聴くように思います。
続くオクターブのエチュード、これもどんなに押しても決してバランスが崩れることがない。そういった反田さんの美点が、ややおとなしく聴こえてしまう可能性はあるでしょうか。この後も順調に進んで欲しいと思っています。
休憩をはさんで、次に登場の日本人は角野隼人さんです。角野さんというよりカティンの方が通じますね。出番待ちの時。
ノクターンOp.48-1. とても落ち着いたトーンで音楽そのものも安定して運ばれていきます。立体感がもう一歩欲しいでしょうか。エチュードOp.10-1はとても力強く、オクターブOp.25-10は迫力がすごい。
スケルツォ第1番で聴かせてくれた軽快さ、それほど深入りせずともぞわぞわするような不安感といった雰囲気を作り出しカティンさんのピアニズムがもっともよく伝わったのではないかしら。秀逸でした。
その後登場したポーランド人ALEKSANDRA ŚWIGUT (Polska / Poland)
ショパンピリオド楽器国際コンクールにも出場して入賞を果たしたのでよく覚えています。ピアノはFAZIOLI。第1次予選からすでにグリーンのドレスで肌の美しさが際立ち女神のような美しさです。
そして、日本人の武田さん。武田さんも前回に引き続き2度目の出場で、それはそれは豊かなウェービーヘアを後ろに垂らしとても素敵です。
ノクターンはOp.55-2。静かでどちらかというと強弱を抑えています。エチュードOp.10-4躍動感あふれ、細かい波が寄せては引く。そしてOp.25-4は正確な打鍵で素晴らしいです。メロディーに特化しているのを、もう少し左手を聴かせてくれるとこの曲ならではスリルが感じられるのでは。
そしてやはり抜きんでていたと私が感じたのは牛田さんです。
ピアノはヤマハです。とてもためらうように出てきたDes-durのノクターンOp.27-2. 右手の様々な装飾は透けるようなレースというよりは、もうドラマ性たっぷりで、装飾音の可能性を最大限に引き出していたと感じます。
すでに演奏家の風格以外の何物でもない幻想曲。耳も目も話すことができませんでした。中間部のコラールの流れは、優秀な指揮者がコンダクターとして横についているかのよう。コラールから最後に向けて決して立ち止まることのなく、まだこの先へ、そしてさらに先へと続く太い音楽の流れは最後は濁流となってなだれ込むまで見事に持って行っていました。
いつも端正でにこやかに見える牛田さん。音楽に没頭した時の表情の変化。
ショパンの指を彷彿とさせる右手の5,4の指。
日本人からファイナルに進む人が出るとすれば牛田さんだろうと確信した演奏でした。
まだまだ続く一次予選。優秀な中国人のピアニストたちも聞き逃せません。
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