「林秀光記念コンサート」と「稲生亜沙紀ピアノリサイタル」 楠原祥子
10月に入ったというのに、まだ日中は半袖やノースリーブの人も見かけます。季節が後の方へずれていくような、今日は暑い一日でした。
ポーランドとの気温を比べてみると、9月、10月は気温の差が大きいことを感じます。ポーランドでは10月に入るとマロニエなどが黄金色に染まり、落ち葉の絨毯の上を歩き、末にもなればほとんどの葉は落ちてしまいます。それに寒いのなんの。もうダウンコートを着るようになり、家の中は暖房が入ります。
この夏ワルシャワで、東京との気候の違いを思わず感じてしまってことがありました。デュオのパートナーのタマラと会った時のことです。
彼女はオシャレでいつもステキに着こなし、その日はオレンジレッドのノースリーブワンピースの上に薄手のムートンファーを羽織っていて、8月の真夏だというのに少しも暑くなさそうで、とてもしっくり着ていました。(この写真では、ファーは座席のどこかに丸められて置いてあった。)
さすがに他にファーを羽織っている人は見かけなかったけれど、湿度が低いとこうもファッションは自在になるものかと気候の差にうなったものでした。
さて。。。。最近聴きに行った二つのコンサートについてご紹介しますね。両方とも会場は表参道カワイパウゼでした。
一つ目はショパン協会パウゼシリーズ・稲生亜沙紀ピアノリサイタルです。
稲生さんは、というより亜沙紀ちゃんは。。。と言った方がしっくり、私の生徒さんの一人で、3才から中学卒業までお教えし、東京芸大付属高校、東京芸大で伊藤恵先生に師事、その後チューリッヒ芸術大学に留学してハンス・ユルク・シュトループ教授のもとで研鑽を積んで帰国し、現在東京芸術大学非常勤講師を務めています。
明るい性格でよく笑い、いつ話しても楽しい一方、ピアノに向かう姿勢にぶれはなく、目指した目標はきちんと達成するための努力をし、強い意志を貫く力を備えています。
目立つことやビッグニュース的なことに人々の耳目というものは集中しがちですが、彼女がそういった話題に無頓着なわけではないと思いますが、それはそれ、自分は自分にできることをやる、という地道さがあります。
この日も応援に来て下さった元ヤマハ千葉店営業マンの栗原さんが、「長いこと多くのピアノの先生とお付き合いさせて頂きましたが、お弟子さんが芸大講師になられたケースは稀ですよね。」と。はい、それはそうです。私もよい生徒さんを持てたことを心から嬉しく思っています!
さてプログラムは、
ショパン:二つのノクターンOp.27、三つマズルカ Op.59、舟歌 Op.60、幻想ポロネーズ Op.61
シューマン:クライスレリアーナ Op.2
このようにショパンとシューマンを並べて聴くと。同じ時代に生き、リストとともにロマン派を作り出した二人の天才の作風・書法・音楽、すべてがまったく違うのだということがよくわかります。
それにしてもクライスレリアーナはすばらしい集中力。よく練られ、よく考えられた演奏。決してセンチメンタルに沈み込まず、変化と律動感に富み、感情的でも音楽的にも節度がよくきいてました。この先の演奏が熟成していくのが楽しみです!ホント、頼もしい存在の亜沙紀ちゃん!!応援に行った小泉さんと黒崎さんとのショットです。
もう一つのコンサートは、『第4回林秀光記念コンサート』です。
私の桐朋での師、林秀光先生が亡くなられて以来、毎年開催しています。私も昨年のコンサートで、海野こず江さん、田村明子さんと共に3人で演奏しました。運営と人選にも携わっています。
このコンサートをシリーズ化して開催するについては、たくさんの方々の気持ちが込められています。
林先生のお葬儀で門下生からのお香典が多額になり、それを基金に『林秀光記念』として門下生のコンサートを立ち上げることに、奥様の林安喜子先生が積極的に賛成して下さいました。さらに、林先生がショパン協会理事でしたので、カワイ音楽振興会の協賛の厚意を頂きました。
そうした背景があっての特別なコンサートで、毎回人選には、日本各地だけでなく、世界各地で演奏活動を続ける林先生の門下生に公平に機会がいくように、細心の注意を払っています。
今回の出演者は・・・
スペイン在住の石本えり子さん、有森直樹さん、奈良場恒美先生。珍しく男性二人で実力派がそろいました!
プログラムは
石本さん、シューベルト:さすらい人幻想曲。
有森さん バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ、 ショパン:即興曲Op.36
奈良場さん ベートーヴェン:ソナタ第12番 Op.26 、 ブラームス:幻想曲集Op.116-1,2,3
有森さんのシャコンヌは何かに憑かれたようでした。そういえば林先生の追悼演奏会の時もそうでした。彼は私のすぐ前に弾いたので、バッハ平均律2巻E-durが、音が迸り出て行くように弾かれていくのを、舞台袖でドキドキしながら耳にしていました。才能が先走るような演奏。林安喜子先生は、「有森さんの素晴らしさはもう言うまでもないけれど、彼の演奏を聴いていると、なぜか息苦しくなってくるのよ。」と仰います。演奏とは本当にいろいろですね。
次はベートーヴェンのソナタ12番『葬送行進曲』。ショパンの『葬送ソナタ』とリンクさせるせいか思い入れがあります。奈良場先生の第一音が鳴ると、すぐにその温かい音に耳が惹きつけられました。これまで何度か演奏をお聴きしてきて、それはいつも感じてきたことです。音楽が音の芸術であることを考えると、奈良場先生のこの持ち音がすでに芸術といえるのかもしれないと思うのです。
特に引きこまれたのは、ブラームスでした。音楽の深みと持ち音が相まって心に揺さぶりをかけてくるようでした。
全員で写真撮影をしなかったのがちょっと悔やまれますが、終了後奈良場先生と有森さんと一緒の一枚です!
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