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越智さんに千葉の自宅のピアノ調律に来て頂いています。

スタインウェイの、高音域セクションの弦の張替えを2日間かけてして頂いたのが12月のこと。その部分の再調律です。
張替え後、安定するまでには時間がかかります。
この1、2年というもの高音域のどこかの弦が切れては張替え・・・ということを繰り返し、張替えると、その音だけどうしても安定するまでビヨンビヨンの音になって、気持ちが悪い状態が続いていました。
それだけでなく、高音域が薄っぺらい音になっていると感じていました。
「思い切って、高音域だけのセクションでも弦張り替えをしてしまうのはどうですか。10年たっていますしね。それに弦跡も深くなっているから、ハンマーもファイリングをかけましょう。」という越智さんのアドバイスを得てのことでした。
弦はレスローというメーカーで、ヨーロッパのピアノはほぼこのレスローの弦を使うそうです。
弦の跡が深くなると、ハンマーのその部分が固くなるから当然音も固くなります。また丸みがつぶれていくので、弦が当たる面が大きくなるために、音もぺらぺらとした薄っぺらな感じになるわけです。
それらを修正するためにハンマーのファイリングをします。
越智さん、今日はずいぶんいろいろ調整をして下さっている様子。背中が真剣であります。
もちろん、いつも真剣に取り組んで下さるのですが。。。
越智さんといえば、『もう一つのショパンコンクール』というNHKのドキュメンタリー番組、ご覧になった方も多いことでしょう。昨年末には8回目の再放映がありました。
FAZIOLI、ヤマハ、カワイ、スタインウェイの4社のピアノメーカーがしのぎを削る、国際コンクールの舞台で楽器と調律師の戦いを追った番組で、越智さんとFAZIOLIピアノを主軸にしています。チョ・ソンジンの本選の演奏では、最前列で越智さんのとなりに座っている私も映っています。
調律師としての越智さんへの信頼度は120%。それだけでなく、嬉しいことにどこか気が合い、越智さんとの話は楽しく尽きることがありません。
よい調律師さんは例外なく道具オタク!当然といえば当然かもしれませんね。
使う道具を自分用にカスタマイズも当たり前のこと。よい道具のためなら投資を惜しまず、広くアンテナを張って情報を得ているようです。
ふと、その越智さんが今日手にしているチューニング用ハンマーを見ると。。。
あれっ、いつもの黒いヤツと違う。
柄の部分はカーボンに限るっ!と言っていたけれど、今日手にしているものは、美しい色の木材のものです。
「いやぁ、変えたんですよ。これねぇスゴイですよ。」
「へぇ〜」
「ローズウッドとツゲなんです。いや、仲間にオタクがいてね(自分は棚に上がっている)、彼が少し前からこれを勧めてくれていたんだけど、カーボンを上回るものなんてないでしょ、って思ってたし、『僕は馴染むのに時間をかける方だから。』とか言ってずっと退けてたんですけど、ついに彼が業を煮やして、これを持って会社まで来ちゃったんですよ。」
「ほーほー」
「でまぁ、会社のピアノで試してみたら、もうビックリでしたよ。全然違う。コレだ!と即決でしたね。」
「うひゃぁ」
「このローズウッドのは、木材そのものがもう流通してないから、アンティークの家具をつぶして作っってるんですよ。」
「すごい美しい木ですね!この色とツヤだけでも良いモノとわかる感じ。」
「ツゲの方だって、ほら、ここに節が入ってるでしょ。これがまた味わいなんですよね〜。」
と越智さんは越にいっています。
「あんなにカーボン・カーボンて言ってたのに、心変わりしたわけね。」
と、ワタクシ、チクリと一撃。
「人間て変わるもんなんですよ、うん。進化していくんですよ〜。」
確かに、良いモノを求めるからこそ変わっていくことを厭わない。それが進化ですね。
「で、何がそれほど違うんですか?」
「僕が思うに、木材だからピンを締める時にしなるんでしょうね。それがいくらかピンにねじれを与えるのかもしれない。カーボンは固いから絶対にしならなくて、それがいいはずだったんですけどね、違ったんですよ。」
この『しなる』『たわむ』、という言葉、調律師さんがよく使います。感覚的な言葉ですね。
ま、越智さんの感覚なら疑う余地なし。
その感覚を頼りに、よりよい響きを生み出して下さるのですから。
その美しいローズウッドのチューニングハンマ−、一枚目の写真で越智さんが手にしています。
 
〜次回は、越智さんと村上開新堂のクッキーの話しです。
 

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